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平成17年04月26日 第三小法廷判決 平成16年(受)第1742号 自治会費等請求事件

判 例 

平成17年04月26日第3小法廷判決 平成16年(受)第1742号 自治会費等請求事件

要 旨:

 会員相互の親睦を図ること、快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団である自治会は、いわゆる強制加入団体ではない。この権利能力のない社団である県営住宅の自治会の会員は、いつでも当該自治会に対する一方的意思表示によりこれを退会することができるとされた事例である。

<編者コメント>マンションの管理組合は区分所有法により強制加入団体であり、組合員の退会は所有者でなくなる迄できません。今回の判決は公営住宅の自治会の事案ですが、一般の自治会、防犯協会、町内会等も強制加入団体ではありませんので、今回の判決と同様の扱いとなります。自治会等の任意加入団体へ加入するかどうかは、民法の契約自由の原則により居住者(賃借人も含)の判断に委ねられ、任意の加入とするのが妥当です。管理規約に自治会等への加入を強制するだけの規定は無効と解されますので、退会できる旨についても明記しておく必要があるでしょう。
  管理費と自治会費等を一緒に徴収することは上記理由により望ましくありませんが、現実的対応としては自治会費等を管理費会計とは別に管理して退会希望者への配慮も必要です。
  なお、必要な総会決議を経た上で、管理組合が団体という一会員として自治会等へ加入することまで排除されないとする考えもあります。  

内 容:

件 名 自治会費等請求事件 (最高裁判所 平成16年(受)第1742号 平成17年04月26日 第三小法廷判決 一部破棄自判、一部棄却、一部却下)
原 審 東京高等裁判所 (平成16年(ネ)第946号)

主 文

1 原判決中本訴請求に関する部分を次のとおり変更する。第1審判決中本訴請求に関する部分を次のとおり変更する。上告人は、被上告人に対し、6万5700円及びこれに対する平成15年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。被上告人のその余の請求を棄却する。
2 上告人のその余の上告を却下する。
3 訴訟の総費用は、これを100分し、その99を上告人の、その余を被上告人の負担とする。

理 由

 上告代理人の上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 被上告人は、(住所省略)所在の県営住宅3棟によって構成されるA団地(以下「本件団地」という。)の入居者を会員とする自治会である。被上告人は、会員相互の親ぼくを図ること、快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団である。 被上告人の規約は、
@被上告人は、本件団地の入居者をもって組織すること、
A共益費は1世帯当たり月額2700円、自治会費は1世帯当たり月額300円とすることなどを規定しているが、会員の退会についてはこれを制限する規定を設けていない。
(2) 上告人は、平成10年10月1日、本件団地2号棟301号室に入居した上、被上告人に入会し、同月分から平成13年2月分までは、被上告人に対し、自治会費を支払ってきた。
(3) 共益費は、本件団地内の共用施設を維持するための費用であり、主なものとして、街路灯、階段灯等の電気料金、屋外散水栓等の水道料金や排水施設の維持、エレベーターの保守、害虫駆除等に要する費用がこれに該当する。
 埼玉県から委託を受けて本件団地の管理業務を行っている埼玉県住宅供給公社(以下「公社」という。)は、被上告人及び本件団地の各入居者に対し、共益費については、本件団地の各入居者が個別に業者等に対して支払うことは困難であることを理由に、被上告人が本件団地全体の共益費を一括して業者等に対して支払うこと及び本件団地の各入居者は各共益費を被上告人に対して支払うことを指示している。被上告人及び本件団地の各入居者は、この指示に従っており、上告人も、被上告人に対し、平成10年10月分から平成13年2月分までの共益費を支払ってきた。
(4) 上告人は、被上告人の役員らの方針や考え方に不満があることを理由として、平成13年5月24日、被上告人に対し、被上告人を退会する旨の申入れ(以下「本件退会の申入れ」という。)をした。
(5) 上告人は、被上告人に対し、平成13年3月分から平成15年2月分までの共益費合計6万4800円及び自治会費合計7200円の総合計7万2000円を支払っていない。

2 本件のうち本訴請求に関する部分は、被上告人が、上告人に対し、上記共益費合計6万4800円及び自治会費合計7200円の総合計7万2000円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めるものである。

3 原審は、概要次のとおり判断して、被上告人の本訴請求を認容すべきものとした。
 本件団地の入居者によって構成される権利能力のない社団である被上告人は、本件団地の入居者が、共用施設を共同して使用し、地域住民としての環境の維持管理、防犯等に共通の利害関係を有しており、かつ、地域的な結び付きを基盤として、入居者全員の協力によって解決すべき問題に対処する必要があることから、これらの公共の利害にかかわる事項等の適切な処理を図ることを目的として設立された。被上告人の会員にあっては、被上告人に入会することで、共用施設の共同利用やその維持管理、安全かつ良好な居住環境の確保等の公共的な利益を享受する一方、これらの利益の享受に対する対価として共益費の支払義務を負うほか、これらの利益の確保のために被上告人を運営し、かつ、その諸活動を遂行する上において必要な経費を賄うために自治会費を負担するものである。そして、被上告人の規約において、被上告人が本件団地の入居者によって組織することと定められており、退会については特別に定められておらず、被上告人の事業の執行は、特定の思想、宗教、党派等によって左右されてはならないと定められている。

  このような被上告人の設立の趣旨、目的、団体としての公共的性格等に照らして考えれば、被上告人の会員が、被上告人の組織の運営等が法秩序に著しく違反し、もって当該会員の個人としての権利を著しく侵害し、かつ、その違反状態を排除することを自律規範にゆだね難いなどの特段の事情がある場合に被上告人に対して退会を申し入れることは許され得るとしても、特定の思想、信条や個人的な感情から被上告人に対して退会を申し入れることは条理上許されないものというべきである。

  したがって、本件退会の申入れは無効であり、上告人は、被上告人の請求に係る共益費及び自治会費の支払義務を免れないというべきである。

4 しかしながら、原審の上記判断のうち、上告人が共益費の支払義務を免れないという部分は結論において是認することができ、また、平成13年3月分から同年5月分までの自治会費の支払義務を免れないという部分は是認することができるが、その余の部分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 前記の事実関係によれば、@共益費は、本件団地内の共用施設を維持するための費用であり、主なものとして、街路灯、階段灯等の電気料金、屋外散水栓等の水道料金や排水施設の維持、エレベーターの保守、害虫駆除等に要する費用がこれに該当すること、A埼玉県から委託を受けて本件団地の管理業務を行っている公社は、被上告人及び本件団地の各入居者に対し、共益費については、本件団地の各入居者が個別に業者等に対して支払うことが困難であることを理由に、被上告人が本件団地全体の共益費を一括して業者等に対して支払うこと及び本件団地の各入居者は各共益費を被上告人に対して支払うことを指示していること、B被上告人及び本件団地の各入居者は、この指示に従っており、上告人も、被上告人に対し、平成10年10月分から平成13年2月分までの共益費を支払ってきたことが明らかであり、これによれば、上告人は、本件団地2号棟301号室に入居するに際し、そこに入居している限り被上告人に対して共益費を支払うことを約したものということができる。したがって、本件退会の申入れが有効であるか否かにかかわらず、上告人の被上告人に対する共益費の支払義務は消滅しないというべきである。
(2) 被上告人は、会員相互の親ぼくを図ること、快適な環境の維持管理及び共同の利害に対処すること、会員相互の福祉・助け合いを行うことを目的として設立された権利能力のない社団であり、いわゆる強制加入団体でもなく、その規約において会員の退会を制限する規定を設けていないのであるから、被上告人の会員は、いつでも被上告人に対する一方的意思表示により被上告人を退会することができると解するのが相当であり、本件退会の申入れは有効であるというべきである。被上告人の設立の趣旨、目的、団体としての性格等は、この結論を左右しない。
(3) 以上説示したところによれば、上告人は、被上告人に対し、平成13年3月分から平成15年2月分までの24か月分の共益費合計6万4800円及び平成13年3月分から同年5月分までの3か月分の自治会費合計900円の総合計6万5700円の支払義務を負うが、同年6月分以降の自治会費の支払義務は負わないというべきである。
 そうすると、論旨はこの限度で理由があり、これと異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

5 以上によれば、被上告人の本訴請求は、上告人に対し、6万5700円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は棄却すべきである。したがって、これと異なる原判決を主文第1項のとおり変更することとする。
  なお、上告人は、反訴請求に関する上告については、上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから、同部分に関する上告は却下することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  (裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)

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